私の足りない何かを、彼女は示そうというのか。自分自身も知り得ない心の奥を。
Open Arms
コツコツコツ……。
ドアの前で止まった足音は、想像していた彼の音とは違った。
観測室に居た私が振り返るのと同時に、その人は入ってきた。
ドアが開く音も、波動エンジンの音も、今夜は無機質に感じられた。
新見さんだった。
私がここに居ることを、知っていた様だ。
彼女は、片手に持ったコーヒーを私に差し出してこう言った。
「コーヒーどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
戸惑いながらも、それを受け取って、ついカップの中を覗き込んだ。彼女の意図を知りたかったからだ。
「変なものは入ってないわよ? ただの差し入れ」
「いえ、そういうつもりじゃ……」
古代君とは、待ち合わせをしているわけではなかった。今夜は、シフトの関係で、この時間
ここで逢える確率が高かっただけ。
そして彼は来なかっただけ。
がっかりしている自分を知られるのも嫌だったし、新見さんがプライベートな用件で、私を探していた、という事実にも警戒心が働いたせいだ。
「私に、何か御用ですか?」
声に、言葉に出てしまっている、と知りながら、それでも構わない。
「わざわざ、私を探して来られたのですよね?」
語尾に僅かに力を込めた。
もうカップの中を覗き込む振りはしない、と私は彼女の目をまっすぐに見ていた。
彼の人は、両手を広げて彼女を抱きとめた。
視界に入った二人の姿に、私は動揺したのだろうか。
あの時チクっと心に刺さったトゲは、消えてしまったように思えるけれど
時々、チクリと痛む。
私は、両手を広げていいのかな。
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ブログに断片的に書いたもの
雪視点で続ける予定です。
年齢制限ナシなので、こちらで。
来年以降、思い付きで書こうかと思います^^